相続放棄
あなたの「放棄」は相続放棄ではないかもしれない
あるご家族のおはなし プロローグ
一家の柱であるAさんが癌で亡くなりました。65歳という早すぎるお別れでした。ささやかながら親しい人たちに囲まれて惜しまれつつ最後のお別れをしました。
49日も過ぎたある日、残された家族でこんなことを話しました。
それにこの家のこともあるし。
それにお袋のこれからの生活もあるから貯金とかその他の親父の遺産も全部お袋に譲るよ。
かくして兄弟は家庭裁判所にて相続放棄の手続きを行い、無事受理されました。
こうしてAさんの遺産は妻であるお母さん一人に相続され、残りの人生を穏やかに過ごすのでした、めでたし、めでたし・・・。
これで話は終わらなかった
この話にはまだつづきがあります。
後日、母親が銀行に行き、Aさん名義の口座解約をしようとしたところ、銀行員とこんな話になりました。
息子2人が相続放棄をして私一人になったはずなのに。
その後、縁遠かった義理の兄弟に連絡を取ってみたところ、快く協力してくれたのは妹たったの一人だけでした。それ以外は自分の取り分をよこせの一点張りで一向に話し合いは進みません。
相続の手続きというのは相続人全員が揃って関与しないと進みません。Aさんのご遺族はいまだに遺産の名義を移せずにいるのでした。(おしまい)
相続放棄とは?
この話は少し脚色が入っているかもしれませんが、これを読んで下さっているあなたにも起こりうることだと思います。
ポイントは、「自分は遺産を引き継がない」≒「相続放棄」ということです。
引き継がないということは放棄すればよいと思われがちですが、法律用語としての「相続放棄」は財産ではなく相続人としての存在自体を放棄するという意図があります。先ほどの話で言えば、Aさんの息子2人が相続放棄をしたことでAさんには最初から子供がいなかったという扱いになってしまうのです。
ちなみに「一部放棄」というものはありません。100か0かです。
解決方法は?
では、息子2人はどうすればお母さんに遺産を全部譲ることができたのでしょうか?
答えは「遺産分割」です。
遺産分割協議によって、お母さん100%、長男0%、二男0%に配分をすると決めれば当初息子2人が望んだ、「貯金とかその他の親父の遺産は全部お袋に譲るよ」になるわけです。
遺産分割は相続人間だけで成立しますので、わざわざ家庭裁判所に平日休みを取って訪れる必要もなく、そして簡単にできるのです。
ここまでお読み頂くと、では、「相続放棄」って何のためにあるの? とお思いの方、きちんと存在意義があるのです。
相続放棄の存在意義
第1位 プラスの遺産よりも借金などのマイナスの遺産が多い時
相続するというのは亡くなった人の借金なども背負うということです。せっかく相続しても借金返済に自腹を切らなければならないのでは意味がありません。
ちなみに生命保険金は原則相続財産に入らないのでこのプラスマイナスの計算からは除外できます。
第2位 他の相続人とは縁を切りたい
ドラマに出てくるようないわゆる「争続」に巻き込まれたくない時は有効です。
第3位 ある相続人へと遺産を集中したい
最初のエピソードは「亡くなった人の妻(=配偶者)である母親」に遺産をまとめようとして失敗した話でした。ところが、長男もしくは二男に集中させるために、母親と兄弟の片方が相続放棄をすればこれは自動的に息子1人に全額相続させることができるのです。
例えば、5代続く老舗旅館を継ぐために跡取りの長男1人に相続させるなどの場合はこれにあたるのかもしれません。
第4位 亡くなった人が誰かの連帯保証人になっていた、もしくは誰かから訴えられていた
連帯保証人や被告人の地位も相続してしまいますので、その後の責任が明らかに大きいときは放棄して終わりにしましょう。
第5位 後から借金がでてくる可能性がある
第1位のように明らかに赤字である場合ではなく、会社を経営していたので知らない借金があるかもしれないとか将来的に負担が多くなる可能性がある場合に検討します。この場合には「限定承認」という別の選択肢もあります。
以上が相続放棄にまつわるちょっとした「トラブル事例」でした。
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