成年後見 ~〇〇と〇〇は使いよう~
Eさんの場合
父名義の実家で2世帯で暮らしている娘のEさん、最近父親の言動から認知症ではないかと思われる節があり、介護経験のある友達に相談をしました。
そして、いよいよ父親が認知症であると診断されたことをきっかけにEさん自身が後見人となるよう、裁判所に後見開始の申し立て手続きを自分で行いました。しばらくの時間が経ち、ようやく裁判所からEさんを後見人とする後見開始の審判がおりました。但し、後見監督人という別の第3者も指定されています。実際、Eさんは後見人として父親の代わりに生活費の支払いやアパートの管理を行っていましたが、いろいろと問題点に気づきました。
問題点
1点目は、父親の代わりにお金を支払うことはできてもその使い道について逐一報告が必要になってくるという点です。そのために、常に父親の生活状況に関して領収書などの記録を保管しておかなければならないのです。さらにEさんは父親と同居していて生活費が一体となり、どのくらいの割合が父親の生活費かをしっかり判別することが容易ではありません。自身の家計簿もろくにつけていないEさんにとっては大変な負担作業でした。 2点目は、後見監督人についてのは裁判所が選任した専門家(弁護士や司法書士等)だったのですが、これらの方に対して報酬が発生することです。もし後見制度を利用しなければこの費用は発生しなかったものです。 3点目は、相続税対策といわれるものがほとんど実行できないという事実でした。Eさんの父親は賃貸アパートを数件といくつかの投資信託により、父親に万が一のことが起きた時の相続税の発生は免れない程度の資産となっていました。そのため生前に納税資金の準備として毎年110万円以内の贈与を行っていたのですが、この贈与も後見開始後は認められなくなっていました。その他、Eさんの子供(父から見れば孫)の大学入学に際して入学資金を支払うことすら認められません。Eさんは少しでも自分が楽になれればと思い成年後見制度を利用したのですが、かえって心配の種は増えてしまったわけです。
(おしまい)
成年後見制度を利用する際のデメリット
この話は少し脚色が入っているかもしれませんが、これを読んで下さっているあなたにも起こりうることだと思います。最近、テレビや新聞等でも使わられるようになった「成年後見」という言葉。裁判所のデータによると後見開始事件の申し立て数は直近5年連続で約3万5,000件にものぼるそうです。
でも、成年後見という言葉は知っていても、利用すべきシーンについての理解度はまだまだ一部の専門家のみの知るところです。そのため、自身のケースが本当に成年後見という制度になじむのかどうか検討をせず、取り返しのつかないことになってしまったという話もよく聞きます。
この記事では制度の利用を考えているあなたに注意すべき最重要ポイント3点をお伝えします。解決策もお知らせしますので最後までお読み下さいね。
デメリット① 財産管理の報告義務
後見開始の審判を受けると本人の財産を後見人が管理することとなります。でも本人の財産は本人のためだけに使わなければなりません。従いまして上記Eさんのように後見人と本人が同居している場合に生活費の割合判定が非常に問題となってきます。
また、後見人が司法書士等の専門家となった場合はEさんが建替えた本人分の支払いを後で後見人に返してもらうようになるので、これはこれで精算が面倒です。もし後見人が非常に自分本位な方であれば事情も聴かず、「それは本人に関わる支払じゃない」と精算を拒否されてしまうかもしれません。親族による使い込みの予防にはなるかもしれませんが、もろ刃の剣になりかねないということです。
デメリット② 専門家への費用負担
司法書士等の専門家が後見人もしくは後見監督人に選任された場合はほぼ報酬が発生します。相場は月2万円程度と言われていますが、これを本人の財産から支払わなくてはなりません。
身内で後見人になれば専門家に支払わなくていいのではないかとあなたは考えるかもしれませんが、今日、一般の方が後見人に就く時は必ずと言っていいほど、司法書士等の専門家が後見監督人として選ばれます。そのため、何らかの形で専門家が関与する構造となっています。また後見監督については裁判所にある専門家の名簿から選ばれるため、申立人にとっては相性の良くない方にあたってしまう可能性もあります。
デメリット③ 相続対策や資産運用などの活用ができなくなる
成年後見人は、本人のためになる(利益になる)ことしか行えません。それは当然のことなんですが、言いかえれば本人の財産を保全することが後見人の役割ですから、贈与・寄付、投資などができないことになってしまいます。そして相続対策といわれるものも、本人の利益ではなく、相続人のためものと判断されるため、できなくなってしまうのです。
また、居住用不動産についても、本人が住んでいる、いないに関わらず、売却、賃貸借、抵当権の設定、建物の取り壊しなども、本人にとって具体的な必要性がなければ認められなくなってしまいます。
つまり、本人の意思とは別に、資産がほぼ凍結されることになります。
成年後見制度を利用する前に考えること
後見制度の必要性をもう一度考える
後見開始が決定されるとやり直すことは現実に難しいです。それにより資産の凍結がされ多くの不便が発生することも認識しなくてはなりません。成年後見制度を利用する動機の1位が『預金や有価証券の管理・解約をしたいから』(裁判所公表データ「成年後見関係事件の概況(平成28年)」)らしいですが、むしろできなくなりますよ。
後見人・後見監督人の候補者選びについて
後見人が身内の人となると裁判所が選んだ専門家が後見監督人になります。監督人がまったく本人の事情を知らないことはよくあります。すると杓子定規に考え、後見人の行動の障害となる可能性も考えられます。
検討しなさいと言っても、判断が難しいですよね。それぞれのご家族で事情は異なりますので。そういったときは、事前に司法書士や弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
また、成年後見制度を考える時には、備えとして事前に活用することができるもう一つの「任意後見制度」や「(家族)信託」といった制度も並行して検討することもお勧めします。
今挙げた2種類は、認知症になる前に自由に後見人や受託者などの管理人、その管理人の権限を設定することができるため、本人の資産を運用したり、相続対策にあてたりする計画も可能になってきます。
2つの活用事例についてはまた別の機会にご紹介いたします。
以上が成年後見にまつわるちょっとした「トラブル事例」でした。
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